エピローグ

失恋竜と契約の花嫁

 抱き合うふたりの姿が見えた。  いや、感じた、というのか――。 (もう見えないわ)  視覚はどうの昔に失っている。瞳自体をもう持たなかったからだ。  見える代わりに、だから感じる。五感ではない部分…

【12】伝説の魔女と失恋竜と契約の花嫁

失恋竜と契約の花嫁

「ずいぶんな反応ね、二百七十五年と百二十五日ぶりに会った友人との再会だっていうのに」  メリルの反応を見て、女性が呆れたように両手を腰に当てた。 (これが、魔女ジャニス……)  スウェナの想像とはま…

【11】愛しているから、ドラゴンは魔女を食べた

失恋竜と契約の花嫁

 メリルは再び眠りについたようだった。  今度は、先刻までのように、浅すぎて不安になるような呼吸ではなく、規則正しい呼吸を繰り返して胸が上下している。  苦しげに眉を寄せることも、掠れた呻き声を零す…

【10】殺してほしいと魔女が言い、涙は甘いと竜が言う

失恋竜と契約の花嫁

「メリル」  瞼が震えるのを見た時、スウェナは耐えきれずにぱたぱたと涙を落としてしまった。 「気がついた、メリル?」  二日間、一度も開かなかったメリルの瞼がゆっくりと動き、赤い瞳が覗く。  メリル…

【9】夢は優しく、懐かしく

失恋竜と契約の花嫁

「やめろって、なぜ?」  笑いながら、彼女が言った。  赤茶けた長い髪、男物のローブの上からでもわかるガリガリに痩せた体、化粧気のまるでない顔は日に焼けてそばかすが浮いている。  お世辞にも美人だな…

【7】落ちこぼれ魔女、魔法が使えなかった理由を知る

失恋竜と契約の花嫁

今もし魔物が現れれば、それが爪の先ほどの小虫であっても、それに太刀打ちできなかっただろう。  スウェナは草すら燃やし尽くされた、禿げた地面に仰向けに転がり、ひゅうひゅうと音を立てて息をした。 「………

【6】落ちこぼれ魔女、ドラゴンを守ると心に誓う

失恋竜と契約の花嫁

(そんなに疲れているのか)  ざくざくと大股に森の中を歩きながら、メリルは背後のスウェナの様子が気になって仕方がなかった。  気にはなるが、振り返るのはどうしてか負けた気になりそうだったので、それが…

【5】ドラゴン、伝説の魔女の話をする

失恋竜と契約の花嫁

 翌日にはメリルの腕の傷が完全にふさがり、顔色もぐっとよくなった。  それでももう少し休んでいた方がいいのではとスウェナは不安になったが、一刻でもジャニスのところに行きたいと言うメリルに強く反対する…

【4】落ちこぼれ魔女とドラゴン、少しずつ距離を縮める

失恋竜と契約の花嫁

 メリルの傷は思いのほか深いようだった。  毒消しの草だけでは足りなかったのか、蛇の魔力が体の中を巡っているようで、瞳の色は濁り、肌の色もどす黒く変わってしまっている。  朝になっても横たわったまま…

プロローグ

失恋竜と契約の花嫁

 夢の中で、時々夢を思い出す。(誰?) 起きてしまえば、それがどんな夢だったのかなんて忘れてしまう。(思い出せない) 空を飛ぶ夢だったと思う。(覚えていようとしていたはずなのに) 誰かと一緒にいる夢…

失恋竜と契約の花嫁

失恋竜と契約の花嫁

「あなたが好き……大好きよ、わたし、あなたを死なせたくない。守りたい」 「だからわたしを殺して。竜珠を取り戻して」 魔法学校を追い出された落ちこぼれ魔術師の少女・スウェナは、ある日強大なドラゴンの宝…