* エレキ祭り2004!! *

『愛してるって言わない』椎名×周一
エレキ祭り!

マメさんマメさんのサイトはこちらです。(04.04.04
「ねえ、そろそろ休憩にしない?」
 呼びかけた声は綺麗に無視された。
「ねえ、椎名さんってば」
 焦れた周一は、学習机から振り返って、背後にいる椎名を見遣る。
 椎名は名指しでも呼ばれても我関せず、の顔で、文庫本を手にベッドに座っている。面倒くさくて自分を無視しているのか、それとも本に夢中になっているのか、周一には判断できなかった。
 それで、そろそろと、音を殺して椅子から降りてみる。
 ベッドに近づこうとした矢先に、ちらりと、とても冷たい目が周一の方を見た。怯まず、さらに近づいてくる周一を椎名が睨む。
「赤点坊主。実テ前のおまえのどこに一分一秒でも無駄なことできる余裕があるって言うんだ?」
「椎名さんと話す時間は無駄じゃないし」
「俺には無駄だ」
「そういう言い方するなよ、俺だって傷付くんだぞ」
 わざと唇をとがらせて言う周一を見る椎名の視線は、やっぱり冷たい。
「家教の時間は家教に費やすのが正しい」
「でも椎名さん、さっきからその本ばっか読んでるじゃん」
 とうとう椎名の前までやってきて、周一は不満も露わにそう言う。
 椎名が、その辺に周一が散らかしておいた雑誌を取るとそれを丸め、手を伸ばして周一の頭を叩いた。
「痛てっ」
「そうやって集中力散漫だから、解ける問題も解けないんだ」
「残念でした、テキスト一ページ、もう終わってますぅ」
 勝ち誇った顔で、周一は体の後ろに隠しておいた数学のテキストを開いて見せる。椎名が軽く目を細め、そのページに目を走らせた。
「汚ったねー字」
「あ、じゃあ問題は正解なんだ」
 答えが間違っているのなら、椎名は真っ先にそれを攻撃する。だから字のことを攻撃するなら、問題は全問合っている。
 そう察しをつけてにやりと笑った周一を、椎名はしばらく睨みつけ、それから諦めたように息を吐いた。
「わかったわかった、じゃあ三分休憩」
みじか!」
 ぶうぶう文句をつけつつも、周一は素早く、椎名の気が変わらないうち、その隣へと腰を下ろした。
 にこにこしている周一を見て、椎名がまた目を細める。
「何だ。またへらへらしちゃって、そんなに俺と一緒にいるのが嬉しいんですか」
「嬉しいに決まってんじゃん」
 からかう声で言った椎名に、周一は迷いなく本音を答える。
 椎名はわざとらしく鼻白んだ顔になったが、周一はそんなことでいちいち傷付かない。椎名の目が、ほんのちょっと、多分他の人から見たらサッパリわからないくらい以前とは違っていることを知っているからだ。
 優しくなったわけじゃない。椎名は相変わらず意地悪だったし冷たかったし、時々「こいつホントに血の通った人間か!?」と周一に叫びたくさせるようなことばっかり言うが、それは多分、今は自分にしか向けられない言葉だということが周一にはわかっている。
 気のせーじゃないの? と大島などにはにべもないことを言われたりもするが、でもやっぱり、周一にはそう確信できる。
 椎名の声音にも目にも、ただお馬鹿な男子高生を見るだけじゃなくて、可愛いもの、愛しいものを見ている人の(それをどうしても「優しい」と形容できないことが、周一の頭を痛くさせるが)空気があるのだ。
「ねえ、今度の実テ終わったら、今度こそ、ふたりだけで釣り以外のことしに連れてってよ」
 周一は椎名を見上げ、こないだっから何回も彼にねだっている言葉を、また口に乗せた。
「釣り以外のことって?」
 そらっとぼけた調子で椎名が返す。
「だからあ……何でもいいんだけど、ふたりだけで食事とか、映画とかー……恒一とか大島がいないとこで、ふたりきり」
「ふたりきりで、何したいって?」
 椎名が、ふと身を寄せて、周一の耳許で囁いた。
 途端、周一はドッと赤面して、何だか体を固まらせてしまった。
「し、椎名さ……」
 あっという間に緊張した周一は、しかし、自分を見返す椎名が、いかにも可笑しそうに笑っているのに気づいてムッとする。
「ま、またそうやってからかって、楽しい?」
「楽しいよ」
「わ……」
 笑った声が耳に掛かる。柔らかい髪を指で掻き上げられ、耳許にキスされて、周一はさらに身を竦めた。
「で、ふたりきりで、何したいって?」
 たったそれだけのことですっかりめろめろになった周一は、さらに椎名に問われて、これ以上はないというほどまた赤面してしまう。
 遊ばれてるのは承知だが、遊んでもらえるのならそれでもいいやと思う辺り、大島曰く「すっかり終わってる」。
「……キス、したりとか」
 ここで遠慮なんてしていたら、永遠に椎名にして欲しいことをされることなんてない。
 周一は照れて仕方ない気持ちを押し殺しながら、目を伏せて呟いた。
「ふうん?」
 椎名がもう一度、今度は音を立ててまた周一の耳にキスをした。
「そ……っ、ちじゃなくて、ちゃんと」
「ちゃんと?」
「……口に」
「してください?」
「……してもいいよ」
 最後の最後、ねだりきれなくて不貞腐れた顔になった周一に、椎名が吹き出した。
 それに抗議しようと、伏せていた目を上げた周一は、思いのほか間近に椎名の顔を見つけて動きを止めた。
 さらに近づいてくる椎名に、そっと目を閉じる。
 唇へのキスはずいぶんと丁寧な仕種で、周一はそれだけで、言葉にできないくらい、泣きたいくらい、倖せな気分になれた。
 ゆっくり触れあって、ゆっくり離れる。
 周一は目を開けられないまま、椎名の肩に額を預けた。
「何だよ」
 素っ気ない声、でも何となく笑っている響き。おまけに肩まで腕で抱かれて、周一が舞い上がらないはずがない。
 もしかしたら、今くらい、椎名も甘くて優しい顔をしていてくれるかもしれない。
 あえかな期待と共に、周一は恐る恐る顔を上げた。
 椎名は周一の視線に気づくと、にっこりと、この上ないほど優しい表情で笑った。
「椎名さ……」
「じゃ、残りテキスト六ページ、ちゃっちゃと終わらせようか」
 そして降ってきたのは、優しい声音の、容赦ない言葉だった。
「六枚!? さっき全部で五枚って言わなかった、今日の分は!?」
「今サボったんだからペナルティ。次のテストでまたみっともない点数取ってみろ、休みの日は一日中テキストと向かい合わせてやるからな」
 こんな言葉を笑顔で言わないでほしい、と周一はげんなりする。
「だからさあ、こないだの不調は、その……なんていうか体調が悪かったからだし、寝不足とか」
「体調管理もテスト前の学生の仕事のうちだ」
「あれはっ、椎名さんにだって半分責任あるだろ、たしかに最初言い出したのは俺だけどさ、もうやだって言ってんのにやめてくんなかったの椎名さんじゃん!」
「それはおまえが全然嫌そうじゃなかったからだろ」
 睨む周一に、椎名はしれっと答える。
「どーしてそこで責任転嫁するかなあ、男らしくないっ」
「あの時のあれで誘われてないと思う男がいたら、どうかしてると思うぜ?」
「……」
「最中だって、ちゃんと勉強教えてやってただろ、俺は」
「……あーいう時に数学の公式とか言わせるの、変態っぽいよ椎名さん……」
 小声で言った周一の抗議は、再び丸めた雑誌で頭を殴られ、黙殺された。
「ほら机戻れよ、次のテストで平均八十点以上行ったら、ふたりきりだろうが映画だろうがディズニーランドだろうがどこにでも連れてってやるよ」
「八十……ッ」
 今の自分の学力レベルでは、とうてい思いもつかないような点数を言われ、周一は一瞬絶句すると、半旬のちに決意を固めた。
「……わかった、今の言葉、俺ぜーったい! 忘れないからね」
 決意を秘め、周一はベッドから立ち上がった。
「ディズニーランド、絶対だからな、チケット用意して待っててよね」
「はいはい、期待しないで待ってますよ」
「ついでにミラコスタで一泊だからね!」
「はいはいはいはい、可愛いバカ息子が平均八十点なんて取ったらお母さんも喜んで俺のバイト代弾んでくれるだろうから、それ使って行こうな」
 椎名はまるっきり、夢の話でもしているような、いい加減な口調で話している。
 もちろん周一は本気だ。今まで叶うことのなかった「椎名さんとふたりきりのデート、しかも一泊つき」を叶えるため、生まれてこの方これ以上真剣になったことがあるだろうかというほど真剣に、机に向かった。
 数週間後のテストの結果、そしてその後の展開は、現時点では未だ神のみぞ知る。

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■ というわけで『愛してるって言わない』のイラストをいただきました、マメさんありがとうございました! 嬉しかったので、ついでにしょうもないネタも書いてみました、オチもなくてすみません。
■ 改めて書いてみるとクソ性格悪い椎名ですが、素敵に描いていただいてホント嬉しいです、周一もぽやぽやちゃんでかわいーよ〜。『愛してるって言わない』は、自分的にすごく未熟な部分やアラが目について、愛着がある分未だ悔やまれる部分も多いお話ですが、好きですと言って下さる方があり、おまけにこんな可愛いイラストまでいただけて倖せです。ひさびさにふたりを書いてみても楽しかった〜、マメさん、本当にありがとうございました!



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