劇団四季「ゴースト&レディ」見逃し視聴

舞台

結構前になっちゃうんですが、動画で視聴しました。
本当は舞台で直接観たかったのに、劇団四季のことをよく知らずに「オペラ座の怪人とかキャッツとかいつもやってる気がするから毎年どこかしらで観られるんだろう」と勝手な誤解をしている間に東京上演が終わってしまった…。
ので、楽天TVで。
ライブ配信すら見逃したために滑り込みで見逃し配信を観ましたよ。

原作は、藤田和日郎好きな同居人に借りて以前読んでいたので、一応履修済みでした。
視聴後余韻を噛み締めたくて自分で購入もした。

舞台は、いやあ、よかったなあ。
歌がとにかくよかった…歌がうまいミュージカルっていいよね…。
今後大阪公演も控えているので、詳しい感想は一応ワンクッション入れますね。

ATTENTION

※以下ネタバレがありますのでご注意ください※

初劇団四季。
すごく端正で真っ当な商業演劇の団体、というイメージを持っていたんですが、実際観てみて印象通りだったなと。
正しく楽しく満足のいくものを観客に提供する劇団という。

原作の「らしい(と私が認識している)」部分が結構潔く削れられていたので、前半は正直ちょっと眠たい感じではありました。
そもそも「かち合い弾」が、というか黒博物館の設定自体がなく、挙句「生霊」の設定すら消え失せていたという、多分最初にこれを知っていたらほんと正直、観なかっただろうなあ。
なのでフローレンス・ナイチンゲールというお嬢さんが、お嬢さんらしく家族の反対に会いつつもちょっと自我を通して誇り高く看護婦として戦場へ行く、っていう流れが、何というか、ものすごく普通で。
想いを寄せてくれる男性はいるけれど、自分の使命のために毅然と立つ…みたいな、本当にまっすぐで無垢なお嬢様という印象でした。
原作にある「狂気」はほぼ…というか皆無で、「『藤田和日郎の』フロー」ではなく「『正しい』ナイチンゲール像」をしっかりやってるのが本当に正直、若干ながら退屈で「私は何を観ているんだ?」と混乱したりもした。
体調的にいまいちだったから、こっちの事情で散漫だったせいも大いにあるかもしれん。ここが自宅視聴のいかんともしがたいところで、いつでも好きな時に楽に観られるのはメリットなんですが、劇場に足を運ぶまでのワクワク感、座席に座ってブザーを待つまでの緊張、開幕の瞬間の歓喜という心理的なブーストがないから、余計なことあれこれ考えちゃう。
ただフローとグレイをはじめとするキャストの歌がとにかくうまくて気持ちいいという一点で、ぐだぐだの眠気を吹き飛ばしてくれました。

順当にフローレンス・ナイチンゲールの物語が進みつつ、途中フローが絶望する理由にもすごくビックリして、でもすごくわかりやすい改変だなと思った。
なるほどこれが四季か、という納得。
絵面としては本当にとてもわかりやすく、演技や歌も相俟ってフローの孤独、等身大の女性らしいゆらぎがひしひし伝わってくる。
原作を知っていると「あれっ?」って思うところも、演技と歌のうまさで納得できるのがすごい。

四季なるほどな~、と油断していたところで、デオン登場ですよ。
ここで急激な盛り上がりがやってきて拳を握った。
出て来た途端空気が変わった。超わくわくする演出でした。
デオンはデオンで、女性性をかなり前面に押し出した衣装と台詞で、原作とは(私の中で)解釈違いではあるんですが、舞台版ゴーストアンドレディの中ではしっくり来ました。

私はあんまりメディアミックスに「原作通り」を求めてなくて、全然違うアプローチでもその作品上で納得がいけば(かつ最終的に解釈が一致していれば)あんまり文句が出ないタイプなんですが、この舞台がまさにそれで、原作通りではないけれど、ミュージカルとしてあまりにうまいこと再構成されていて、そこがとりわけ楽しかったんだよな~。
「あ、ここ原作と違うな」と思いつつも不快感がなかった。
デオンとグレイの剣の対決シーンとかめちゃくちゃかっこよくて盛り上がったよ。
あと本当にとにかく歌が気持ちよくてですね。アンサンブルも歌とダンスがうまくて、金を出した甲斐を感じる。
私は以前、帝劇で主役の俳優がヤバすぎて音を外すとかリズムを外すとか以前に高音で声が出ていないという怖ろしいミュージカルを観たことがありまして、以来歌がうまいというだけで一〇〇点をつける観客になっているため、この舞台は最終的に二〇〇点でした。

デオン登場でテンポも速くなり、それぞれ感情的な部分でも盛り上がり思惑が交錯し、演出もかっこよく、歌とダンスは最高だし、ああいいな、ミュージカルおもしろいな、って前半の眠たさも忘れてひとり大興奮していたところで、終盤のフロー対ホールのシーンがやってきた。
き、急に来た! 
シーンとしては順当だからそういうことじゃなくて、急に! 作画が藤田和日郎になった!!
デオンもかなり狂気を孕んでおり外連味たっぷりだったんですが、フローのジョン・ホール絶対殺すマンへの変貌は相当見物でした。
すごく、すごくよかった。
今まで本当にいろんなところが端正に、丁寧に組み上げられていたのはすべてここに到るためだったのだと悟った瞬間に、誇張ではなく鳥肌が立った…。

そしてラストシーンで、この舞台が「舞台」で演じられる意味を全身で感じて、とんでもない多幸感と、何でチケット取らなかったのかバカバカという自分への罵倒で胸がいっぱいになった。
そうだよ、だってゴーストアンドレディだよ。シアターゴーストだよ。
四季のことを全然舐めてたつもりはありませんでしたが甘く見積もっていたかもしれない。計算しつくされた商業演劇なんだろうなと悟った気分ではあったので、その凄みが予想の何百倍もあったことを体感して拍手喝采です。
なるほどそうか。そうか~~~~!!
いやあおもしろかった。すごくよかった。
大切に丁寧にミュージカルとして作られた、原作リスペクトを感じる最高の舞台だった。
興味ある人はできればなるべく舞台で直接観てほしいなと思います。来年名古屋と大阪がある。

前半ボーッと観てしまったのが悔やまれる。時間的に一回しか観られなかったので、できれば頭からもう一度見直したい…。
結局、最終的に、私は藤田和日郎のゴーストアンドレディを観たんだなという充足感がみっちりしていました。
終幕後に一人暗い部屋で拍手し続けていた…フローがグレーにチューしたところで「ひゅ~~!!」って口笛を吹きもした。部屋を飛び出し同居人に「名古屋一緒に行こうね! 観ないのはバカですよ!」と叫びもした(夜中)。
生で観られなかったことも心底悔やんでいるので、名古屋か大阪公演はチケット取りたいなあ。

あとちょっとだけね、これを帝劇でというか東宝やったらどうなるかなという想像をしました。
帝劇版ゴーストアンドレディも観たい、多分かちあい弾とか生霊を取り入れると思うんだ。漫画的というか視覚的な演出が増えるだろうなと勝手に想像できるので、そういう部分のおもしろさではより原作っぽさが組み入れられるだろうなとか。
四季版に何ら文句はありませんが(前半のフローの演出というか解像度の上げ方がちょっと俗っぽくなりすぎていたことが気になるといえば気になるけど、より多くの人にわかりやすく楽しんでもらうためにあえてだというふうに深く納得はできるので)、満足がいったがゆえに、先鋭的な演出でも観てみたいという欲が出てしまった。

何にせよ舞台、ことミュージカルはすばらしいなと思いました。もっと観たいなあ。

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Posted by eleki