ルームシェアをしていても「なんで?」と不思議がられないしあわせな世界
それは私たちがオタクだから。
一般的な社会生活をとんと送ったことがないのでただの想像なんだけど、多分会社勤めをしている未婚の女性が「ルームシェアをしている」と言ったら、「なんで?」と訊かれる気がする。
学生時代だったら、「家賃節約かな?」とか「にぎやかなのが好きなのかな?」とか「テレビでやってるようなシェアハウスに憧れていたのかな?」みたいな感じで、「なんで?」と訊かれたとしても、そこに否定的なニュアンスはさほど入らないのではないだろうか。
でも少し前に、ルームシェアをしている女性の話を聞いた時、「いい年をした女が」「結婚できなくなるよね」みたいなニュアンスでおもしろおかしく評価されていて、有り体にいれば笑いものにされていて、「あっ、そういうことを言われる世界線もあるんだ」と面喰らった。
オタク界隈(界隈…)に足を突っ込んでいない人にはもしかしたらピンとこないかもしれないけど、小説なりまんがなりを書いている人たちは、結構ルームシェアをしている。
今一緒に暮らしている人も、出会った時は別の人と一緒に暮らしていた。
私がルームシェアを始めた動機が「相手の愛猫目当て」だったので、他の人についてはやっぱり想像するしかないんだけど、「オタク同士の生活が楽しい」という理由が一番大きい気がする。
だからオタク仲間に「ルームシェアをするんだ」と言うと、返ってくるのは「なんで?」じゃなくて「いいなあ!」だったり、「いいよね」だったりするので、楽ちんだ。
ちなみに私がルームシェアをすると言った時、いろんな人から「よかった」と言われた。「よかった、これで渡海さんが孤独死せずにすむ」と。
もしくは「いいと思うよ」「その方がいいよ」と。
私があまりに長期的に寝込んだり救急車で運ばれたり入院したり手術したりして、その都度近所に住んでいた現同居人に付き添ってもらっていたので、「いっそ一緒に暮らした方が楽な気がする」と同居人自身に言わせてしまって、非常に申し訳ない気分になりもした。
挙げ句引っ越し直後に私が寝込んだので、まだ入居完了していない同居人がせっせと飲み物や食料を運びに通ってくれたりもして、後日また「どうせ通うことになるなら同じ家の方が楽だなと思ったよ」と言わせてしまった。
私が具合が悪くなった時の同居人の対応や入院が決まった時の準備がどんどん洗練されていくのを見て、申し訳ない。
別に介護させるためにルームシェアを申し出たわけではないのだ。断じて。
話が逸れたよ。
とにかくオタクの女性はルームシェアをしていることが珍しくない。
自分の直接の知り合いだけで、複数そういう生活をしている人たちがいるからそれがごく当たり前のことに思えていたけど、一般的には珍しいことだったり不思議なことだったりするんだろう。
という現実に直接ぶちあたったのは、ルームシェアのための物件探しの時だった。
私も同居人もこれまで何度かお世話になってきた仲介業者に一緒に出向き、「二人でルームシェアをするので、部屋を探したい」と言ったら、鼻で嗤われたのだ。
「二人でって、結婚したくなったらどうするんですか?」と、ルームシェアなんてしない方がいいというニュアンスを隠さず言われて、動揺した。
こちらから条件は伝えたのに、相手は物件をひとつも見せようともせず、探す気配もなく、「そういう部屋はないと思いますよ」と言ったあと、なお半笑いで黙り込んだ。
相手の態度でもう「ここは駄目だな」と悟ったので、さっさと退散した。
その業者さんにはお世話になってきたから貢献したい、というような殊勝な気持ちもあったんだけど吹き飛んだよ。
親切だったし仕事に対する情熱もある業者さんだったから、その時までは信頼もしていたけど、そういえば「気長に探すので、条件が合うところが出たら知らせてください」と一応頼んではおいたのに、一度も連絡が来なかったな。
もしかしたら地元密着型の昔ながらの業者はそういうタイプの人が多いかもしれないと予測して、物件はネットで探す方にシフトした。
当時はかなりカチンと来たけど、そんなことより物件探しに意識を割いていたので、ころっと忘れていた。
その後ネットを介して連絡を取った仲介業者も、物件を直接取り扱っていた老舗の地元密着型業者も、ルームシェアについてまったく余計なことを言わなかったので、「最初に行った業者が変だったのだろう」となんとなく結論づけていたのかもしれない。
だから冒頭のように、否定的なニュアンス、何なら嘲笑的に女性同士のルームシェアについて語られているのを耳にして、改めてびっくりしてしまった。
ルームシェアをしている私たちが、普段「なんで?」と問われないのは、「オタクだから周りにそういうものだと思ってもらえる」という話ではなく、「オタクなので一般的な社会で生きている人と滅多に遭遇しない」せいなので、それがいいとか悪いとかいう話ではないけど。
ルームシェア、楽しいよ。
推しを想って息も絶え絶えになった同居人がリビングで倒れて呻き声を上げる姿などが日常的にあって、楽しいよ。
きっちり個室が分かれているので、ひとりになりたい時はひとりでいられる。
でも夜中に怖い夢を見て飛び起きた時、相手も起きていれば、夢の話を聞いてくれる。
同じ家の中にいるのに、なぜかLINEで延々萌えを語り合ったりしている。
「打つのがめんどくさくなったから」と言って、途中で居間で合流したりもしている。
ごはんは誰かと一緒に食べたい方なので、朝と晩、一緒にドラマとかアニメとか見ながら食事できるのが楽しい。
私も同居人もある部分ではものすごく繊細なのに、それ以外のところは人並み外れてズボラなので、そのあたりの価値観が合致していると、とても楽ちんです。
前に一緒におやつを食べていて、同居人が食べかすをこぼしてしまったけどみつからなくて困っていた時、私が「あとで掃除機かければいいよ」と言ったら、同居人がしみじみと「いやあ、渡海さんが同居人でよかった…」と低い声で言った。わかる。私が脱いだ靴下をリビングに置き忘れてたのに気づいて「ごめん、忘れてた」と言っても、同居人は「うん、靴下あるなあって思ってた」としか言わない。
家事分担など一切せず、やれる人がやれる時にやれることだけやって、適当に回ってる。
たぶんルームシェアをしている人の中でもうちは相当にゆるい方じゃないかなと思うけど、誰にも責められず訝しがられず生きる毎日は楽しい。
今後も、いらん人にいらんことを言われないまま、猫たちと一緒に、おもしろおかしく暮らしていけますように。