帝国劇場 ミュージカル『マリー・アントワネット』
結構前のことになってしまうんですが、チケットをいただいて観てまいりましたマリアン再演。
脚本・歌詞
ミヒャエル・クンツェ
音楽・編曲
シルヴェスター・リーヴァイ
演出
ロバート・ヨハンソン
遠藤周作原作「王妃マリー・アントワネット」より
なんで「チケットをいただいて」なのかというと、初演の時のマリアンに割合不満があって、自力でチケットを取るかどうかちょっと迷ってたからです。
感想読み返したら本当に文句ばっかり言ってて笑ってしまった…。
たまたま知人がチケット余ってるっていうので、ありがたく観に行った。
話はバランスが悪すぎて(カリオストロにばっか文句言ってるけど、全体的に何か変な話だったんだよ)曲はすごく好きだったので、楽しみにしていました。
そして再演を観て浮かんだ言葉が、
願いごとには気をつけろ、叶うかもしれないから
です。
カリオストロいらないいらない言ってたら、本当に消えてしまった。
いやカリオストロは本当にいらなかったんですが、まさかボーマルシェとラパン婦人とシスターアニエスまで消えるなんて。
いやいやいやいや。
ボーマルシェもカリオストロがいなくなるなら諸共に消えてしかるべき役回りだったと思うんですが、シスターやマダムラパンがいなくなるって、もう根本から話変わってきちゃうじゃないの。
と思っていたら本当に根幹からまるで違う舞台になっていて度肝を抜かれた。
好きな曲というのが『流れ星のかなた』だったんですけど、シスターの存在と共に消え失せていたよ…私はずっと、いつシスターが出るのか、いつ流れ星の彼方をシスターとマルグリットが歌うのか、心待ちにしていたんだよ。
幕が下りるまで歌わなかったな!
結局まだ原作を読んでいないんですが、もはや原作の名前を出さない方がいいのではという改変ぶりな予感がする。まあ出さないわけにもいかないんでしょうが。
なおキャストは今回、
マリー・アントワネット/笹本玲奈
マルグリット/ソニン
フェルセン伯爵/田代万里夫
ルイ16世/原田優一
て感じの回に行きました。
とにかくもうみんな歌がうまい。
最初から最後まで幸せな気持ちで歌を聴いていました。
一緒に行った母が観劇後に「あのキャストの中に下手な人が混じってたらどんな気持ちになるのかって考えてしまった」というようなことを呟いていて、おいやめろ、誰のことを言っているのかわかりすぎるのでやめてくれ…。
それにしたって本当にみんなうまかった。
ザ・ミュージカル! って感じで、それだけでチケット取ってよかったのになと悔やみまくった。次回あったら自腹で行きます。
それにしても再演は再演でめちゃくちゃ変な話だったなあ。
正直なんでベルタン嬢たちのとこにあんなに尺割いてるのかもわからなかったし、MAの秘密が突然すぎて初演でネタ知ってるのに(知ってるから余計にか?)置いてかれ気味だし、よくわからないけど、でもすべて歌の力でまとめていてすごかった。
これ宝塚版とかオリジナル版ってどうなってんだろうなあ、みんな変なバランスなのかな。
マダムラパンが消えたので娼館のシーンも消え、代わりにエベールのシーンが増えた。
娼館のシーンはエリザベートの時とそっくりで、エベールの地下新聞の辺りは1789の時とそっくりなので、何かこう、時期によってクンツェのはやりがあるのか? という感想です。
クンツェじゃなくて、ヨハンソンさんの趣味か?
以下、感想というか覚え書きみたいなもの。
ちょっとどう書いてもディスってるようになってしまうんですが褒めているのですみません。汲んでほしい。
フェルセン伯爵/田代万里夫
脚本改変のせいなのか万里生の演技のせいなのか、フェルセンのお花畑ぶりに腰が抜けた…だ、大丈夫か!?
冒頭から「おまえ何言ってんだ…」と狼狽したまま観ていた。
前回は井上フェルセンで、もう少し正義のことを思ったり王妃のことを想ったりしていた気がするんですが(王妃をちゃんと窘めて、結局改善されなくても『それでも愛しているから見捨てられない』という感じがしていた)、ま、まさか「王妃が処刑されるなんて思ってなかった、信じていたのに」ってあの状況で言えるのってすごくない!?
初演は「渦中の人」だった印象のフェルセンが「ずっと蚊屋の外の王子さま」みたいな感じで、それはそれでとてもおもしろかったです。
うまく説明できないこのおもしろさ。一途で憐れで、でも愛らしいという。
役者個人の特性なのか脚本のせいなのかわからないので、うーん、古川雄大の回も観たかったなと今さら…。
マリー・アントワネット/笹本玲奈
王妃も王妃ですさまじかった。初演の時もなかなかの世間知らずのお姫さまという感じで、でも多分それが日本人が考えるところの『マリー・アントワネット像』だった気もする。
けど再演アントワネット様はもう腥い女の香りがすごくて、少女の無邪気さも、だからこその愚かさや残酷さそして王妃としてのすさまじいプライドもなく、ただただ女だった。
初演は「マリー・アントワネット」の名を冠しながらも「マルグリット・アルノー」の物語でしたが、今回はマリー・アントワネットの物語、そしてマリー・アントワネットと対立するマルグリット・アルノーの物語だった気がします。
アントワネットは初演も再演も救いようのない嫌な女で、最後まで改心もしないし自己中のままで、やっぱりそこがすごくおもしろい。
そして初演よりもより宮廷の出来事に触れる演出だったんだけど、何しろ王も王妃もポンコツで市民を苦しめた悪なのに「でも、こっちはこっちで大変なんだよ」みたいなところがちょいちょい出てくるせいでよりポンコツぶりが浮き彫りになるという、すごく興味深い表現方法だった。
美しいもの正しいものをそのように描くのではなく、嫌なもの醜いものも美しく飾り立てて歌い上げる、そしてそれを正しいとは決して言わない、みたいなところがクンツェの舞台の好きなところです。
マルグリット/ソニン
ソニン役のソニン。マリー・アントワネット絶対殺すマン。
マリアンの前に『1789-バスティーユの恋人たち-』も観ていたんですが、
何回バスティーユに攻め込むのか。
新妻マルグリットは運命に翻弄されつつも懸命に生きる少女、というイメージで、力強いけどどこか可憐な歌声が本当に大好きなんですが、ソニンはもう、誰かが支えなくても一人で生きていけそうな力強さに溢れていた。クラスはバーサーカーでバスター宝具、バフで火力上げつつデメリットでHPが減るスキル持ちです。
新妻マルグリットはカリオストロ(+ボーマルシェ)が描いたシナリオに踊らされている感じがしたんだけど、ソニンマルグリットは自らすべてを破壊して破壊して、なのに突然すべての罪をエベールに押しつけて悪怯れずむしろ正義を貫いたような堂々とした生き様が壮絶でした。
ものすごく正直に言えば、最後にマルグリットもギロチン台送りになれば、いろんなことが腑に落ちる舞台だったなあと思う。
ただ繰り返しになってしまいますが、クンツェの舞台は「腑に落ちてすっきりする」という類のものではなく、あるものをあるがままに描いているという印象なので、別にスッキリしなくてもいいのだ。
オルレアン公/吉原光夫
歌がうまい……歌が……うまい……うおおおおおおおおおおおおおお歌がうまいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
歌がうまいよぉ…。
歌がうますぎて歌がうまかった。もうそれ以外に言うことがない。歌がうまい。
何でおまえがカリオストロの曲を歌っとんねんと思ったけどどうでもいいわ、歌がうまい…歌がうまいミュージカルって…いいね…!?
オルレアン公の歌がうまいと舞台がいろいろ歌が、歌がうまいなあ。歌がうまい…。
歌がうまかったです。
歌が上手いというだけでこれほどの説得力があるというか、やっぱりミュージカルは歌が上手い方がいいというか、歌がうまいミュージカルっていいよね…。
すみません語彙が死んでいる。いろいろ言いたいことを言うと誤解を受けそうで言えないけど、最近ミュージカルに対して鬱憤が溜まっているので歌がうまいミュージカルが私は好きですという主張に留めます歌がうまいミュージカルはいいぞ。
吉原さんが歌がうまかっただけという意味ではなく、小ずるいところのある野心家の貴族をすばらしく演じ上げていました。好き!
初演から再演への変化のうちで一番観て儲けたなと思ったのは吉原さんのオルレアン公でした。歌声を聞いていて気持ちよすぎてゾクゾクした。
レオナールとベルタンは本当にどうしてここに尺割いたのかいまいちしっくりこないので、もう一回観たい。初演の時くらいでよかった気がする。演技とお歌自体はすごく楽しかったんだけど。いや、楽しかったから増えたのか(急に納得した)。
ランバル夫人はすごく可哀想でよかった。初演の時は九月虐殺やらなかった気がするんだけど、ここも増えて楽しかったところ。ランバル夫人が殺されたところの絶望感が半端ない。
エベール君は小者感際立ちましたね! 1789からの流れで見ると、やっぱり作り手側に地下新聞のはやりがあったのかなあと思ってしまう。
すごく正直に不満を言ってしまえば、王妃を扱き下ろす歌をマルグリットが作ったっていう流れがどうにも受け入れられなかった…。
ただ、初演の「学校に通っていた=それなりに学のあるマルグリット」であればやらない矜恃があっただろうなと思うんですが、便所掃除をして暮らしてきた再演のマルグリットなら、まあ、やるだろうなと納得はできる。
王妃の贋物を演じたのも、「王妃にあこがれ、王妃になりたいと願っていた」マルグリットではなく「王妃を憎み、あの女を陥れようと自ら選んだ」マルグリットであれば、それについてまったく悪怯れないのも納得できる。
思い返すと、私は初演の新妻マルグリットが本当に好きだったんだなあと。脚本と演出と演技込みで。
そこはおいといて、ソニンの力強いマリー・アントワネット絶対殺すマンも類い稀なる感じなので、やっぱりもう一度観てみたい。
何より、とにかく、キャスト全員の歌唱力と熱量、あと衣装や舞台装置が本当にすばらしかったので、そこだけでも繰り返し観る価値がある演目でした。
ちょっとでも気になる舞台は全力でチケットを取らねばならぬ、と改めて思うのであった。
帰ってきてから死ぬほど初演版のライブCD聴いてる。
再演のも買うぞ。
ライブ盤はAmazonにはないんだな。