東宝「エリザベート」いよいよ武田トート
エリザベート
キャスト
閣下:武田真治
フランツ:石川禅
ルドルフ:浦井健治
ゾフィー:寿ひずる
以下、ネタバレ? になりますので、武田トート未見の方はお気をつけください。
あと異様に長いですよ。
いやー…
一応、心の準備をしていったんですけどね、タケは、もう…不整脈が出るほど緊張して見ました。へんな汗かいた!
タケに併せているのか、金トートの時に較べて全体的に動的な演出になっていたようでした。すごく動きが多くて、大きい。
事前に読んでいたタケのインタビューで、感情表現を豊かに、人間臭く、というような意味のことを言っていた記憶があるんですが、まさにその通りでした。
動きで感情を見せる感じ。エリザベートに会ってびっくりして恋に落ちちゃって、もうなりふり構わず彼女を手に入れようとしているような。
その様子が、何というか必死かつ無邪気で、金トートとはまったく違う印象なのがおもしろかった。
山口閣下の時は、何というか老獪な感じで、エリザベートへの思いは閣下にとって新鮮でありながら、彼女を手玉に取ろうとする印象なんですけど。これまで、そうやって誰かを手に入れるためにいろいろやってきて、百戦錬磨なのに、その培ってきた技術がシシィに通じないことにとまどっているふう。
でも武田トートは、綺麗でおもしろいものみつけた! 欲しい! でもやり方わかんないからとにかく全力で構ってこっち向いてもらう! って、健気というと変なんですが、こう、ほほえましく…ラストで、よかったね、がんばったね、とニコニコ拍手してしまう感じでした。
金トートは、シシィやそれを取り巻く人間たちを、あざ笑いながら傍観している。外からちょっと手を入れて、高処から覗いてるような。
武田トートは、自分から人間たちと同じ土俵に入って行って、率先してぐるぐるかき回しては、おもしろいように人間が踊るので、キャッキャはしゃいでる感じ(でもシシィだけは思い通りにならないので、不貞腐れている)。
シシィにとっては、金トートは自分の愛した「死」と同じ香りのする、抗いがたい魅力を持った親しい(と同時に、生きたいという気持ちが嫌悪させる)存在だったように思えるけど、武田トートは本当に降って沸いた天災みたいなもんだったんじゃないかと思う。
…と考えると、シシィが武田トートに惹かれた理由がよくわかんなくて、未だ解釈に苦しんでるわけですが。
あー、タケって死の香りがしないんだよな。そこが一番違和感でした。生き生きしすぎてて。この辺は見てる人の解釈で成り立つ部分だろうから、見て納得した人の意見を聞いてみたい…。
一緒に観に行った母が、「武田は帝王っていうより王子だね」って言っていたのにものすごく納得した。パパがいそう! パパ、今日人間の可愛い女の子見つけたよ、あれ俺のものにしたいなあ! って言ったら「人間なんてダメッ!」って怒られて、意地になったような。
あ、孤独の匂いもしないんだな。
シシィとトートが惹かれあった理由って、わたし解釈だと、シシィが「死に憧れていた」こと、シシィとトートが「孤独だった」ことだと思っているんですが(金トート見てそう思った)、タケってシシィ以外に何もない、って空気がない。失敗しても誰かが慰めてくれそう。
タケがシシィを好きになった理由も、それに執着してる気持ちもよくわかったんですが、逆の方がやっぱむずかしいな〜。シシィがタケを好きになるメリットって何だったんだろう。タケに相対してると、シシィは「死ぬもんか、頼るもんか!」ってほんとに一人で生きていけるようになっちゃって、金トートに対する時のような、「頼りたい、でもそれでは自分の誇りが許さない」っていう、気持ちの揺れが全然なくなってしまう。
あ、そういうこと?
今勝手にちょっと納得しました。あれだ、金トートに対しては、自分よりも大きな、抗いがたい存在に対する精一杯の抵抗、タケに対しては割と対等な相手に対する意地か? 同級生の男の子への対抗心のような。
そうすっと、武田トートの場合は、まだ何も知らない無邪気で可愛いシシィを好きになって、シシィは自分に似たトートに興味を持って、てとこから始まるわけですね。
で、おもしろがったタケがシシィの記憶を奪って(この辺、山口さんの時はある程度の思い詰めた感じというか、悲愴さがあったんだけど、タケは純粋にゲームとして初めてみちゃった! 的な)おっかけっこを始めたら、シシィをフランツが見初めちゃって、トート閣下はご機嫌斜めだよ〜♪ になると。
はいはい、少し腑に落ちた。すみません、思考垂れ流しで。
恋した無邪気でかわいい女の子が、結婚するわ子供生むわ自我に目覚めるわで、タケ的には「ええええええええええ」って感じだったんだろうなあ。
ゾフィーと揉めて、フランツと決裂したあたりでは、「ほらほら俺と一緒に来ればそんな思いしないんだからさ」とか笑っていたのに、シシィが「ひとりでやりますし!」とがんばってしまったので、こりゃいかん、笑ってないで本気ださねーと、と。
本気出したのにシシィが他人に殺されるまで一回も手出しできなかったところは、金もタケも同じなのに、どうしてタケだとこんなにへたれ感がするのだろうか。かわいいなあ(そこか)。
で、一番心配してたルドルフとの「闇が広がる」ですが、なるほど、並んで立つとあきらかに身長差が出てしまうから、ルドルフはやたら跪いてタケに縋っていたのだなあ。
山口さんの時は、滲み出る色香みたいのにくらくらしましたが、タケはフェロモン全開で、ち、ちょっと恥ずかしかった…!
その辺を買われてタケがキャスティングされたんだと思うんですけども。
それにしても、ルドルフが自殺したあとにタケが唾棄していたのにびっくりした…! びっくりした、あれは心底おどろいた。で、ああ、ここが武田トートなんだな〜とすげー納得した。本当に全部オモチャなんだ、と。ここで一番タケの孤独を感じたりした。ここがなかったら、武田トートは最後までわけわかんないままだっただろうな。
そしてルドルフがすごく不憫になった…。ルドルフにとってもタケは天災でしかなかったな。金トートは、ルドルフにとってシシィの次に心の支えで、惹かれ方はシシィとまったく一緒だっただろうけど、武田トートに対しては、ルドルフにはシシィの少女時代のような無邪気さがなかった分、ただ怖くて痛いばかりだっただろうなあ。嫌だ嫌だと思いつつ、振り回された挙句にあれだよ。救いが全然ない。
それはそれでまたおもしろい感じだったんですけど。
演出的に最も気の毒だったのはルキーニだった。ルキーニは狂的な狂言回しとしての位置付けのはずが、頭のおかしい度は武田トートの方がでかいから、印象がかすんでしまった。そのへんのバランスが悪くて落ち着かなかった。高嶋さんの方が芸達者な分、素で吉外なタケに負けてたように見えた。天然には勝てません。
……というあたり全部ひっくるめて、今後武田トートがどうこなれていくかが楽しみです。
タケが今後絶対成長するというのは確信できるので(実際、一幕からラストまでの間にもぐんぐんよくなってた。他の人の劇評を読んでも、同じことが起こっているらしいし)、今回の楽とか、来年以降とか(やりますように)、すっげー楽しみです。一から役者さんを見ていられるっていうのは、観客にとってとてもしあわせなことだと思います。
楽近くにもう一回タケを見に行くので、そこでどんなふうに変わっているのか確かめてきます。
トートといえば山口さん、と印象の固まってる舞台で(いや、わたしの中で。内野さんは山口トートのわかりやすく見やすい版・正統派というイメージです)、それをぶちこわしていくのは大変なことだと思います。タケだけじゃなく、全キャスト・スタッフも。
でもそういうパワーがあるってすごいな〜。そう、力がすごかったよタケバージョンは。それがいいか悪いかはまだわかる段階ではありませんが。だから楽しみに見守りたいです。
それにしてもタケが絡むすべての演出が、身長差をどうにかするためにがんばっていて、おもしろかったなー…。
という感じ。自分メモ的な要素もあるので、クソ長い日記になってもうた。
あ、あといっこ覚え書き。二幕、キッチュの後のエーヤンで、市民諸君の最初のソロ、前回見てすごくいい! と思ったのに、なぜか昨日はソロでなく、ふたりで歌っていた。あの声じゃイカンってことか?
そのソロの人、群舞でもすごく目を惹いたので、気になるんですが、別の舞台に出てるなら見たいなあ。