こころなんてしりもしないで・第7話
(――まいった)
土曜日、日曜日と、外に遊びに行く気にもならず悶々と自分の部屋で過ごす秋口の頭を占めていたのは、そんな気持ちばかりだった。
まさかあんな展開になるとは思わなかった。
まさか、佐山が、自分のことを好きだとは。
男なんてまるっきり趣味の範疇外だったから、そんな展開を考えたこともなかった。
なのに、なぜ……と考えると秋口はすっかり混乱してしまう。
(何で、俺は全然嫌な気分にならないんだ?)
昔別の男に言い寄られた時は、『虫酸が走る』という言葉を実体験したくらい、最低な気分になったのだ。言い寄ってきたふたりのうち片方は、佐山よりもずっと見た目のいい、妙に女性的なところのある男だった。胸があればそのまま女だと言い張れるくらいの美形だったが、秋口には生理的にその相手が許せなかった。
あれほどの美形でも許せなかったのに、なぜ、と秋口は途方に暮れる。
あんなに冴えない、やせっぽっちの男だというのに――
(でも、変に可愛いところがあったり)
気を抜くとそんなことを思ってしまい、そのたび秋口は慌てて佐山の酔っぱらって赤い顔や、小さく寝息を立てる寝顔を記憶から追い払おうとした。
なのに自分に寄り掛かってきた体の重みや温かさ、無防備に眠りこける表情は頭の中から消してしまえず、秋口を煩悶させる。服を脱いで寝たのは失敗だった。ふと素肌が触れて、夜中に何度も目を覚ましてしまった。寝返りも気軽に打てず、ろくろく眠ることもできなかった。佐山の方は、酒の力も手伝ってかぐっすりだったのが、恨めしいほど。
目が覚めるたび、自然と佐山の素肌に手が伸びそうになって、その都度秋口は自分の行動にぎょっとしなければならなかった。
何だかもう、わけがわからなかった。
(でも、そうだ)
そわそわする秋口の心をどうにか落ち着かせたのは、不意に浮かんだひとつの考えだった。
もし、本当に佐山が自分のことを好きだというのなら。
(佐山さんが俺のことを好きな限り、雛川さんになびくことがない)
その考えは、自分にとって大変な救いになるもののように、秋口には感じられた。
そう、利用してやればいいのだ。
自分は決してゲイなどではないのだから、せいぜい、そんな相手を利用してやればいいのだ。自分の目的はあくまで沙和子だ。彼女が佐山とよりを戻してしまわないよう、妨害するために佐山を食事に誘ってきた。
佐山が自分のことを好きだというのなら、それを利用してやればいいのだ。
いっそ自分にメロメロにさせて、その間に沙和子を自分のものにしてしまえばいい。そうしたら後は佐山に用なんてない。仕事の時に顔を合わせて、たったそれだけの関係になればいい。
「……そうだ、それがいいんだ」
秋口はそう決めると、やっと安心した。
自分が何を不安がっていたかなんて、考えるつもりはなかった。
土曜日、日曜日と、外に遊びに行く気にもならず悶々と自分の部屋で過ごす秋口の頭を占めていたのは、そんな気持ちばかりだった。
まさかあんな展開になるとは思わなかった。
まさか、佐山が、自分のことを好きだとは。
男なんてまるっきり趣味の範疇外だったから、そんな展開を考えたこともなかった。
なのに、なぜ……と考えると秋口はすっかり混乱してしまう。
(何で、俺は全然嫌な気分にならないんだ?)
昔別の男に言い寄られた時は、『虫酸が走る』という言葉を実体験したくらい、最低な気分になったのだ。言い寄ってきたふたりのうち片方は、佐山よりもずっと見た目のいい、妙に女性的なところのある男だった。胸があればそのまま女だと言い張れるくらいの美形だったが、秋口には生理的にその相手が許せなかった。
あれほどの美形でも許せなかったのに、なぜ、と秋口は途方に暮れる。
あんなに冴えない、やせっぽっちの男だというのに――
(でも、変に可愛いところがあったり)
気を抜くとそんなことを思ってしまい、そのたび秋口は慌てて佐山の酔っぱらって赤い顔や、小さく寝息を立てる寝顔を記憶から追い払おうとした。
なのに自分に寄り掛かってきた体の重みや温かさ、無防備に眠りこける表情は頭の中から消してしまえず、秋口を煩悶させる。服を脱いで寝たのは失敗だった。ふと素肌が触れて、夜中に何度も目を覚ましてしまった。寝返りも気軽に打てず、ろくろく眠ることもできなかった。佐山の方は、酒の力も手伝ってかぐっすりだったのが、恨めしいほど。
目が覚めるたび、自然と佐山の素肌に手が伸びそうになって、その都度秋口は自分の行動にぎょっとしなければならなかった。
何だかもう、わけがわからなかった。
(でも、そうだ)
そわそわする秋口の心をどうにか落ち着かせたのは、不意に浮かんだひとつの考えだった。
もし、本当に佐山が自分のことを好きだというのなら。
(佐山さんが俺のことを好きな限り、雛川さんになびくことがない)
その考えは、自分にとって大変な救いになるもののように、秋口には感じられた。
そう、利用してやればいいのだ。
自分は決してゲイなどではないのだから、せいぜい、そんな相手を利用してやればいいのだ。自分の目的はあくまで沙和子だ。彼女が佐山とよりを戻してしまわないよう、妨害するために佐山を食事に誘ってきた。
佐山が自分のことを好きだというのなら、それを利用してやればいいのだ。
いっそ自分にメロメロにさせて、その間に沙和子を自分のものにしてしまえばいい。そうしたら後は佐山に用なんてない。仕事の時に顔を合わせて、たったそれだけの関係になればいい。
「……そうだ、それがいいんだ」
秋口はそう決めると、やっと安心した。
自分が何を不安がっていたかなんて、考えるつもりはなかった。